職場でのストレスやパワハラなどが原因で精神的な不調となり、医師から休職の診断書が出された場合、「なぜ労災や公務災害として認められないことがあるのか」と疑問を感じる人は少なくありません。
精神疾患には外部環境が大きく影響することがありますが、労災認定では単純に「外的要因があったか」だけではなく、法律で定められた基準に基づいて判断されます。この記事では、精神疾患と労災認定の考え方、認定されるために確認されるポイントについて解説します。
精神的不調と外的要因の関係
医学的には、病気の発症には環境要因、遺伝的要因、生活習慣要因など複数の要素が関係すると考えられています。ストレスや職場環境は、その中でも環境要因の一つとして精神的健康に影響を与えることがあります。
例えば、長時間労働、強い叱責、職場での嫌がらせ、人間関係のトラブルなどは、精神的な負担となり、うつ病や適応障害などの発症や悪化に関係する場合があります。
しかし、医学的に「ストレスが原因の一つ」と判断されることと、法律上「業務による疾病」と認定されることは同じ意味ではありません。
医師の診断書と労災認定は判断基準が異なる
医師が発行する休職診断書は、患者の健康状態を医学的な観点から判断し、休養や治療が必要であることを示すものです。
一方、労災認定では、発症した精神疾患が「仕事による強い心理的負荷によって発生した」と認められる必要があります。そのため、診断書があることだけで自動的に労災になるわけではありません。
例えば、医師が「職場のストレスが影響している」と判断した場合でも、労災制度では仕事内容、労働時間、出来事の内容、その負荷の程度などを総合的に確認します。
労災や公務災害で精神疾患が認定されるポイント
精神疾患の労災認定では、厚生労働省の認定基準に基づき、発病前のおおむね6か月間に業務による強い心理的負荷があったかどうかが確認されます。
評価される例としては、極端な長時間労働、重大な仕事上の失敗、職場での嫌がらせやパワーハラスメント、過重な責任を伴う業務などがあります。
一方で、日常的なストレスや一般的な職場の悩みについては、個人差も大きいため、すべてが労災原因として認められるわけではありません。
「外的要因なのに認定されない」と感じる理由
精神疾患の場合、身体的なけがのように原因と結果を客観的に確認することが難しいという特徴があります。同じ職場環境でも、強いストレスを感じる人もいれば、影響を受けにくい人もいます。
そのため、認定制度では個人の感じ方だけではなく、一般的な労働者を基準にして、その出来事がどの程度の心理的負荷になるかを評価します。
例えば、「上司から注意された」という出来事だけでは判断できません。注意の内容、頻度、言動の程度、継続期間、業務上必要な指導だったのかなど、具体的な事情を含めて判断されます。
裁判所や審査機関はどのような役割を持つのか
労災保険の判断について不服がある場合、審査請求や再審査請求、さらに行政訴訟によって裁判所で争うことができます。
行政機関の判断が常に正しいとは限らず、裁判によって認定判断が覆るケースもあります。しかし、裁判所も単純に「ストレスがあったか」だけではなく、法律上の認定基準や証拠に基づいて判断します。
そのため、制度上の問題を議論する場合には、認定されなかった事例が本当に基準に照らして妥当だったのか、また証拠評価が適切だったのかという観点から検討する必要があります。
精神疾患による労災制度を考える上で重要なこと
精神疾患の労災認定では、被災した人の苦痛や職場で受けた影響を軽視しているわけではありません。一方で、労災制度は公的な補償制度であるため、一定の客観的な基準を設ける必要があります。
例えば、同じ「人間関係のストレス」でも、単なる意見の違いなのか、継続的な人格否定やパワーハラスメントなのかによって評価は変わります。
正確な判断のためには、診断書だけではなく、勤務記録、メール、相談記録、周囲の証言など、具体的な状況を示す資料も重要になります。
まとめ|精神的不調の原因と労災認定の判断は別の基準で行われる
ストレスやパワーハラスメントなどの外的要因が精神的不調につながることは医学的にも認められています。しかし、労災や公務災害の認定では、外的要因が存在したかだけではなく、法律上の基準を満たすほど業務による心理的負荷があったかが判断されます。
そのため、「医師が職場ストレスを認めた=必ず労災になる」という仕組みではありません。逆に、認定されなかったからといって、本人が感じた苦痛や職場環境の問題が存在しなかったという意味でもありません。
精神疾患に関する労災制度を理解するには、医学的な原因論と、法律上の補償判断の違いを分けて考えることが大切です。


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