会社経営をしていると、役員貸付金の処理について悩む場面は少なくありません。特に「事前確定届出給与として届け出た役員賞与を、役員貸付金と相殺したい」というケースは中小企業で比較的よく見られます。
しかし実際には、「現金をきちんと動かさないとダメなのか」「帳簿上だけで相殺して問題ないのか」「税務署から否認されないのか」など、不安を感じる経営者や経理担当者も多いでしょう。
この記事では、役員貸付金と役員賞与の相殺処理について、税務・会計上の考え方や実務上の作法を整理して解説します。
役員貸付金と役員賞与の相殺は可能なのか
結論から言うと、役員貸付金と事前確定届出給与による役員賞与を相殺処理すること自体は、実務上行われるケースがあります。
つまり、必ずしも一度会社口座から役員個人口座へ送金し、その後返済として会社へ戻す、という現金移動をしなければならないわけではありません。
ただし、「単なる帳簿上の処理」に見えてしまうと、税務上問題視される可能性があるため注意が必要です。
なぜ税務上注意が必要なのか
役員賞与は、通常の役員報酬と比べて税務上かなり厳しく扱われます。
特に事前確定届出給与は、
- 支給日
- 支給額
- 支給方法
などを事前に税務署へ届け出る制度です。
そのため、届出内容と実態が異なると、「損金不算入」と判断されるリスクがあります。
例えば、
- 実際には支払っていない
- 支給日がズレている
- 金額が違う
などは典型的な注意ポイントです。
帳簿上の相殺だけで済ませる場合の考え方
実務では、以下のような仕訳処理を行うケースがあります。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 役員賞与 | 役員貸付金 |
つまり、「役員に払うべき賞与を、貸付金返済に充当した」という考え方です。
ただし、この場合でも重要なのは、
- 役員本人が相殺に同意している
- 会社として正式意思決定している
- 証拠資料が残っている
ことです。
単に会計ソフト上で数字だけ消したように見える処理は避けた方が安全です。
実務上よく行われる「作法」とは
税理士が実務でよく行う方法としては、以下のような流れがあります。
① 役員賞与支給決議を残す
株主総会議事録や取締役会議事録などで、事前届出通りに役員賞与を支給する決議を残します。
中小企業でも、この書類はかなり重要です。
② 相殺合意書を作成する
「役員賞与請求権と役員貸付金を相殺する」旨の簡単な合意書を作るケースがあります。
これは税務調査対策として非常に有効です。
③ 会計処理を明確にする
仕訳日付や摘要欄に、
「役員賞与と役員貸付金を相殺」
など、内容が分かる形で記録を残します。
現金移動をした方が安全と言われる理由
税理士によっては、「一度現金を動かした方が安全」とアドバイスする場合があります。
これは、実際に資金移動がある方が、
- 実態が明確
- 税務署へ説明しやすい
- 形式不備を指摘されにくい
ためです。
例えば、
- 会社→役員へ賞与振込
- 役員→会社へ貸付返済
という流れを作れば、証拠が非常に明確になります。
ただし、実務上は資金移動コストや手間を避けるため、相殺処理だけで済ませる会社も少なくありません。
特に注意したい税務リスク
役員貸付金は、税務署が比較的チェックしやすい勘定科目です。
そのため、以下のような状態は注意が必要です。
- 長年返済されていない
- 契約書がない
- 利息設定がない
- 役員個人資金と混同している
さらに、役員賞与との相殺を毎年曖昧に繰り返していると、「実態のない処理」と見られる可能性もあります。
そのため、証拠資料をきちんと整えておくことが重要です。
税理士と事前確認した方が良いケース
特に以下の場合は、税理士へ事前確認した方が安心です。
- 金額が大きい
- 役員貸付金が長期化している
- 事前確定届出給与を利用している
- 税務調査が近い
- 会社と個人のお金が混在しやすい
役員報酬・賞与周りは税務否認時の影響が大きいため、慎重な処理が求められます。
まとめ
役員貸付金を事前確定届出給与による役員賞与で相殺すること自体は、実務上行われることがあります。
必ずしも現金を実際に移動させなければならないわけではありませんが、税務上は「本当に支給・返済が成立しているか」が重要視されます。
そのため、単なる帳簿上の処理だけで済ませるのではなく、
- 議事録
- 相殺合意書
- 仕訳記録
などを整備し、実態を説明できる状態にしておくことが大切です。
また、金額が大きい場合や役員貸付金が長期間残っている場合は、税理士へ相談しながら処理することで、後々の税務リスクを減らしやすくなります。


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