公認会計士試験の監査論では、「現金や有価証券は資産の相互融通を防ぐため同時に実査する」という論点が頻出です。しかし勉強を進めると、「決算日は3月31日なのに、実査は4月以降に行われることもあるのでは?」「決算日後に相互融通してもBSには影響しないのでは?」と疑問を持つ受験生も少なくありません。
実際、この論点は監査の“時点”と“証拠”の考え方が整理できていないと混乱しやすい部分です。この記事では、監査実務と監査論の考え方をつなげながら、実査・カットオフ・相互融通の意味をわかりやすく整理します。
なぜ現金や有価証券は同時に実査されるのか
まず、監査における「資産の相互融通」とは、同じ資産を複数の場所で二重計上しているように見せる不正を指します。
例えば、本社と支店の現金を別々の日に実査すると、会社側は次のような操作が可能になります。
- 4月1日に本社の現金を実査
- 4月3日にその現金を支店へ移動
- 4月4日に支店でも同じ現金を実査
この場合、実際には同じ現金なのに、監査人が別々の現金として認識してしまうリスクがあります。
つまり「同時実査」は、同じ資産を使った二重見せを防ぐための監査手続です。
「決算日後に動かしてもBSには影響しないのでは?」という疑問
ここで多くの受験生が感じるのが、「でもBSは3月31日時点なのだから、4月以降に資産を移動しても関係なくないか?」という点です。
これは半分正しく、半分誤解があります。
確かに、決算書に表示されるのは3月31日時点の残高です。しかし監査人は、その3月31日時点の実在性を“後日”検証しています。
つまり、監査人はタイムマシンで3月31日に戻れるわけではないため、4月以降の監査証拠を使って「3月31日時点に存在していたか」を推定しています。
そのため、決算日後に現金を移動させることで、監査人を誤認させるリスクがあるのです。
決算日後の実査はどのように3月31日に結びつくのか
監査実務では、決算日当日に必ず実査できるとは限りません。そのため、監査人は「期末日から実査日までの増減」を確認して、3月31日時点の残高へ引き直します。
例えば、4月5日に現金実査を行い、実査額が120万円だったとします。
| 内容 | 金額 |
|---|---|
| 4月5日実査額 | 120万円 |
| 4/1〜4/5入金 | 30万円 |
| 4/1〜4/5出金 | 10万円 |
この場合、監査人は帳簿や証憑を確認しながら、3月31日時点残高を逆算します。
120万円−30万円+10万円=100万円
つまり、「4月5日時点の現金」そのものを監査しているのではなく、「そこから遡って3月31日時点残高の妥当性を確認している」というイメージです。
監査論で重要なのは“実在性”の検証
監査論では、実査は主に「実在性」のアサーションに対応する手続と整理されます。
つまり監査人は、「帳簿に載っている資産が本当に存在しているか」を確認しています。
その際、もし資産の相互融通が行われると、本来存在しないはずの資産が存在するように見えてしまいます。
したがって、同時実査には以下の意味があります。
- 同一資産の二重カウント防止
- 循環取引的な不正防止
- 実在性担保
- 監査証拠の信頼性向上
監査論では単なる暗記ではなく、「なぜその手続が必要か」を考えると理解しやすくなります。
受験生が混乱しやすい“監査時点”と“財務諸表時点”の違い
この論点で混乱する最大の理由は、「監査をしている時点」と「財務諸表が対象としている時点」が異なるからです。
財務諸表は3月31日時点を表しますが、監査手続は4月〜5月に実施されることも珍しくありません。
つまり監査とは、「後日集めた証拠から、過去時点の財務状態を検証する作業」なのです。
そのため監査論では、期後取引やカットオフテスト、ロールバックなどの考え方が重要になります。
まとめ
現金や有価証券の同時実査は、決算日後に資産を移動させることで監査人を誤認させる「資産の相互融通」を防ぐ目的があります。監査人は決算日後に実査を行うことも多いですが、その場合は実査日から期末日までの増減を追跡し、3月31日時点残高へ引き直して確認しています。つまり、監査では「今ある現金」を見るだけではなく、「その現金が決算日時点にも存在していたか」を検証している点が重要です。監査論では、実在性や監査証拠の考え方と結びつけて理解すると整理しやすくなります。

コメント