特許制度における「先使用権」は、後から特許出願された技術について、先に実施していた側を一定範囲で保護する仕組みです。しかし、どこまで認められるのかは誤解されやすく、特に製品変更や事業拡大を伴う場合に判断が難しくなります。本記事では、先使用権の基本要件と、具体的な時系列事例をもとに認められる範囲を整理します。
先使用権の基本的な考え方
先使用権とは、他人の特許出願前から日本国内でその発明を実施、または実施の準備をしていた者が、一定の条件のもとで引き続きその発明を実施できる権利です。
これは特許法第79条に基づく制度であり、「先に実施していた事業の継続保護」が目的で、新たな事業展開まで無制限に認めるものではありません。
先使用権が成立するための主な要件
先使用権が認められるためには、少なくとも次の要件を満たす必要があります。①特許出願前にその発明を知らずに独自に実施していたこと、②日本国内で実施または実施準備が行われていたこと、③事業としての実体があることです。
単なる試作や検討段階では足りず、客観的に事業性が認められる証拠が重要になります。
提示された時系列における先使用権の成立
2020年1月1日時点で、会社aは製品Xにおいて技術イを実施しています。この時点は他社bの出願前であり、独自実施であれば、製品Xに関する先使用権の基礎は成立し得ます。
その後、2020年3月1日に製品Xの販売を開始している点からも、「事業としての実施」が認められる可能性は高いと考えられます。
先使用権はどこまでの範囲で認められるのか
先使用権で認められるのは、原則として「出願前に実施していた発明を、同一の事業目的・同一の実施態様で継続する範囲」に限られます。
そのため、2021年2月1日に新製品Zへ技術イを適用する行為は、製品Xとは別製品であり、新たな実施態様や事業拡張と評価される可能性が高く、先使用権の範囲外と判断されるリスクがあります。
製品変更や新製品への適用は認められるか
判例や実務上、製品の小規模な改良や型番変更など、実質的に同一事業と評価される場合は先使用権の範囲内とされることがあります。
しかし、新製品Zが製品Xと市場・用途・構成が異なる場合、「事業の同一性」が否定され、特許権侵害となる可能性が高くなります。
実務上注意すべきポイント
先使用権は自動的に広く認められる権利ではなく、後に争いになった場合は、実施時期・内容・範囲を証明する責任が使用者側にあります。
出願前からの実施事実を示す設計図、製造記録、販売記録などの証拠管理が極めて重要です。
まとめ:先使用権は「出願前の実施範囲」に厳格に限定される
提示された時系列において、会社aは製品Xに関する技術イの先使用権が認められる可能性はあります。
一方で、出願後・特許査定後に新製品Zへ技術イを適用する行為は、原則として先使用権の範囲外と評価されやすく、慎重な判断と専門家への確認が不可欠です。


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