会社の役員として業務に関わりながら、同じ会社から別の仕事を業務委託として受けても問題ないのかは、多くの経営者や役員が一度は悩むテーマです。本記事では、役員が自社から業務委託を受けるケースについて、法的・会計的な観点から整理し、実務上注意すべきポイントを具体例とともに解説します。
役員と会社の関係は雇用ではなく「委任」
まず前提として、会社役員と会社の関係は、一般的な従業員とは異なり、民法上の「委任契約」に基づくものとされています。そのため、役員報酬は給与ではなく、業務執行の対価として支払われます。
この点を理解せずに業務委託契約を追加すると、税務上や法務上で「実態は役員報酬ではないか」と判断されるリスクが生じます。
自社役員が別業務を業務委託で受けること自体は違法ではない
結論から言うと、役員が自社から役員業務とは別の業務を業務委託として受けること自体は、直ちに違法になるわけではありません。会社法上も、明確に禁止する規定はありません。
ただし、その取引は「利益相反取引」に該当する可能性があります。会社法では、取締役が自己または第三者のために会社と取引を行う場合、取締役会または株主総会の承認が必要とされています。
この点については会社法第356条に定めがあります。詳細は[参照]をご確認ください。
会計・税務上で問題になりやすいポイント
会計・税務の実務では、業務委託費として支払った金額が「実質的には役員報酬」と判断されるかどうかが重要になります。役員報酬は原則として期首に定めた定期同額でなければ損金算入できません。
例えば、財務担当役員が同社からコンサルティング業務を業務委託として受け、その内容が役員業務と区別できない場合、税務調査で否認される可能性があります。この場合、業務委託費が損金不算入となるリスクがあります。
実務で認められやすいケースの具体例
実務上比較的認められやすいのは、役員業務と業務委託業務の内容が明確に異なり、専門性や成果物が客観的に説明できるケースです。
例えば、A社で財務担当役員を務める一方、A社からシステム開発やデザイン業務を、個人事業主や別法人として業務委託で受ける場合などが該当します。この場合、契約書、業務内容、報酬算定根拠を明確に残すことが重要です。
トラブルを避けるために必ず行うべき対応
役員が自社から業務委託を受ける場合、取締役会や株主総会での承認を正式に行い、議事録として残すことが不可欠です。また、業務委託契約書を作成し、業務範囲や成果物、報酬額を明確に定義しましょう。
加えて、税務上の取り扱いについては、事前に税理士へ相談することでリスクを大きく下げられます。実態と形式が一致していることが、最も重要な判断基準になります。
まとめ:可能だが「形式」と「実態」の整合性が重要
役員が自社から役員業務とは別の仕事を業務委託として受けることは、法的に一律で禁止されているわけではありません。しかし、利益相反取引への該当や、役員報酬とみなされる税務リスクが常に伴います。
そのため、事前承認、契約書の整備、業務内容の明確化を徹底することが不可欠です。適切な手続きを踏めば、実務上成立するケースもありますが、慎重な判断が求められる取引であることは間違いありません。


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