一般社団法人の元役員が不利な情報を流す行為は違法か?信用毀損・競業行為の法的整理

企業法務、知的財産

一般社団法人の統合や役員兼任が解消された後に、元役員が過去の業務情報を使って別法人へ顧客を誘導する行為は、法的に問題になり得るのか判断が難しいテーマです。本記事では、一般社団法人の元役員が関与する情報流布や信用低下行為について、刑事・民事の両面から整理し、どのような場合に違法性が生じるのかを具体的に解説します。

前提となる状況整理と論点

本件の特徴は、一般社団法人AとBが過去に統合関係にあり、同一人物が会長・専務理事を兼任していた点にあります。その後、理事退任と統合解消を経て、BがAと同種の事業を開始するという流れです。

問題となるのは、退任後にAの「解決済み案件の不正部分のみ」を外部に伝え、Aの信用を下げることで、Bへ顧客を流動させようとする行為が法的に許されるかどうかです。

信用毀損罪・業務妨害罪に該当する可能性

刑法上、虚偽の事実や誇張された内容を流布し、他人の社会的評価を低下させた場合、「信用毀損罪」や「業務妨害罪」に該当する可能性があります(刑法233条)。

たとえ一部が事実であっても、全体像を歪める形で不正部分だけを切り取って流す行為は、実務上「虚偽の風説」に近い評価を受けることがあります。条文の考え方については[参照]が参考になります。

民事上の不法行為責任(損害賠償)のリスク

刑事責任とは別に、民法709条に基づく不法行為責任が問題になる可能性があります。信用低下によって取引先を失った場合、法人Aは損害賠償を請求できる余地があります。

特に、元役員という立場で知り得た内部情報を用いて競業行為を行った場合、「社会的相当性」を欠くとして違法性が認められやすくなります。単なる批評や意見表明とは区別される点が重要です。

役員として負っていた守秘義務・忠実義務との関係

一般社団法人の理事は、在任中はもちろん、退任後であっても、在任中に知り得た非公開情報について一定の守秘義務を負うと解されています。

また、在任中に形成された信頼関係や情報優位性を利用して、法人に損害を与える行為は、忠実義務違反として評価される可能性があります。この点は会社法の考え方が類推適用されることもあります。

適法となり得るケースとの違い

一方で、すべての情報開示が直ちに違法になるわけではありません。公表済みの事実や、公益目的での内部告発、事実を正確かつ客観的に伝える場合などは、違法性が否定される余地があります。

しかし、本件のように「顧客流動を目的として信用を下げる意図」が明確な場合、その目的自体が違法性判断において不利に働くことが多いのが実務上の傾向です。

まとめ:罪になるかは行為態様次第だがリスクは高い

一般社団法人の元役員が、過去の業務情報を使って特定の不正部分のみを流布し、他法人へ顧客を誘導する行為は、信用毀損罪や業務妨害罪、不法行為責任に該当する可能性があります。

事実の有無だけでなく、情報の出し方、目的、立場性が総合的に判断されるため、法的リスクは決して低くありません。具体的な対応を検討する場合は、早期に弁護士へ相談することが強く推奨されます。

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