M&A取引において企業価値(Enterprise Value)から株主価値(Equity Value)を算出する際、さまざまな調整が必要です。特にNet Debtの調整や運転資本の現金化、EBITマルチプルやDCF(割引キャッシュフロー)を使った評価方法に関する理解が重要です。本記事では、その調整方法と実務でよく見られる手法について解説します。
1. 運転資本を現金化した場合の影響
企業価値を計算する際、運転資本を現金化して現預金を増やすと、結果としてEquity Valueは高くなります。これは運転資本の変動が企業の財務状態に直結するためです。ただし、M&Aの実務においては、現金化がどのように運用されるかは取引の状況や企業の戦略によって異なります。一般的には、運転資本の現金化を行った場合、純粋な企業価値(EV)を保つために調整が行われます。
実際には、企業の財務状況を正確に反映させるために、運転資本と有利子負債の調整が行われることが多いですが、これが何とでもなるため、調整方法には慎重な判断が求められます。
2. EBITマルチプル vs DCFによる調整方法の違い
EBITマルチプル法(企業価値をEBITに適用した倍率で算出)とDCF法(割引キャッシュフロー法)での企業価値計算において、調整方法が異なる場合があります。EBITマルチプルを使う場合は、事業運営に必要な資本の影響を比較的シンプルに加味できますが、DCF法では詳細なキャッシュフロー予測に基づいた調整が求められます。
したがって、どの方法で企業価値を算出するかによって、運転資本の現金化やNet Debtの調整方法が変わる可能性があります。どちらを使用するかにより、評価結果に差が出ることを理解しておく必要があります。
3. 必要最低資金の計算とNet Debtの調整
M&Aにおいて、事業運営に必要な最低資金(Working Capital)をNet Debtの計算において差し引くことがあります。これにより、Equity Valueが調整されることになります。最低資金は、企業が日常的に運営を行うために必要なキャッシュや流動資産の金額であり、計算方法にはさまざまなアプローチがあります。
一般的には、最低資金は「月間支出額×CCC(Cash Conversion Cycle)」という計算式で求めることが多いです。これにより、最低限必要な現金を確保するためにどれだけの資本が必要かを把握でき、Net Debtの計算に影響を与えます。
まとめ
M&A取引において企業価値を計算する際には、運転資本の調整や有利子負債の考慮が重要です。特に、EBITマルチプルとDCF法の違いや最低資金の扱い方によって、最終的なEquity Valueは大きく変わります。適切な調整を行うためには、取引の状況に応じた方法を選ぶことが重要です。


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